世間に受け入れられているものが「素晴らしいもの」とは限らない


「素晴らしいもの」というのはちょっと定義が難しいのですが、高品質なもの、高級なもの、高度なもの、といったものをまとめた表現として、ここでは考えています。さて、世の中には、というか少なくとも私の周囲には、世間に受け入れられているものは「素晴らしいもの」であるはずだと信じている人が少なくないのですが、必ずしもそうとは言えないということについて書いてみたいと思います。

素人に「素晴らしいもの」は理解できない

世間に受け入れられているものが「素晴らしいもの」とは限らない、というのは非常に簡単な話で、素晴らしさというのはある程度の知識を必要とするので素人には理解できないというだけのことです。

テレビでは、最も視聴率がとりやすいゴールデンタイムにバラエティ番組が放送されています。教育番組はほとんど放送されません。ジャンルが違うので一概に比較できるものではありませんが、バラエティ番組と教育番組では後者のほうが「素晴らしいもの」と言えるでしょうけども、実際にはバラエティがウケるわけです。

また、音楽では、J-popとクラシック音楽ではたいていの人が後者の方が「素晴らしいもの」と判断すると思われますが、これもジャンルが違うので簡単に比較はできないのですけども、実際にお金を払ってまで聞こうと思うのはJ-popでしょう。

これら教育やクラシック音楽といったものは権威があるので、その質を判断できないにしてもなんとなくわかるところはあるのですが、少しでもマニアックなものになってくると、大部分の人には理解できなくなります。

理解できないものを素晴らしいと評価することはできません。その意味で、世の中に広く受け入れられているということは、素人でも理解できるものなので、ひねくれた捉え方をすれば、素人でも理解できる程度のものに過ぎないとも言えます。

素人が「素晴らしいもの」を壊す?

何かに対して素人であることは別に悪いことではありません。たとえ何かの分野を代表するような専門家であっても、他の分野では素人です。ただ、現在では、素人が容易に参加できるようになっていることもあって、「素晴らしいもの」が崩壊してしまうことがあります。

従来では「素晴らしいもの」を維持する仕組みが機能していて、新たにそれに参加しようとする者はその分野についてそれなりの知識や技能を習得することが求められました。しかし、現在では、(いろいろと系譜があるんですけども)価値観の多様化などから「素晴らしいもの」を維持する仕組みが機能しなくなりつつあり、生き残りについて真剣に考える必要が出てきました。

生き残りを考えるならば、「素晴らしいもの」への参加者を集める必要があるわけですけども、それなりの知識や技能を持っていないと理解できないので、人が集まってきません。ではどうするかというと、素人でも理解できる形で提供せざるを得ないことになります。

典型的な例として大学をあげることができるかもしれません。大学は本来、研究をするところであり、入学するためにはそれなりの学力が求められます。しかし、大学も生き残りを考えねばならず、多くの学生を集める必要が出てきて、実質誰でも入学できるようになりました。大学での学びというのは自主的にやるものなので、大学によって程度の差はあるでしょうけども、高校と比較すれば比較的自由な雰囲気は出てきます。この自由というのを理解できない人が少なくないので結果的にレジャーランドのようなことになってしまいました。中にはレジャーランドを自称する大学まで出ているほどです。

他には伝統文化や工芸品でも同じようなことが起きています。着物は、着るためにはある程度の知識が求められますし、また柄や製法などについても幅広い知識が求められます。しかし、素人にはそういうのは理解できないので、簡単に着れる着物、洗える着物、ポップな柄の着物、といったもの(私はこれを和風コスプレと呼んでいます)が出てきました。ただでさえ職人不足で技法が失われつつあるのに、まともな職人が素人向けの着物に携わらざるを得なくなったので、まともな着物の数が減りつつあります。

誰でも参加できることは素晴らしいけど…

従来では「素晴らしいもの」に参加できるのは、ある程度限られた人たちでした。その意味では、価値観の変化などによって、誰でも参加できるようになったのは素晴らしいことです。

しかし、参加できるからといって何の準備もなしに参加するのは、どうなのでしょうか?最低限、勉強するということがあってもいいのではないでしょうか?郷に入っては郷に従え、ではないですけど、その分野に対する敬意というのはあってしかるべきです。

「素晴らしいもの」の側にある種の傲慢があったことは否定できないところもあるのですが、だからといって素人の参加が絶対的に肯定されるということもおかしな話です。