絵画を手っ取り早く理解する方法

最近「デキるビジネスマンは美術を知っておくべきだ」みたいなことが言われます。美術を扱うビジネスマンならともかく、美術に関する教養を深めても成績が上がるわけではありませんし(知っておいて損はないと思いますが)、そういう言説に振り回されるデキるビジネスマンというのもなかなか滑稽だなぁと感じます。そこで、そんな忙しいビジネスマンのために、美術、特に西洋絵画を手っ取り早く理解するコツを紹介したいと思います。

そもそもなぜ絵画は理解できないのか

「絵画は難しい」とはよく言われます。そしてある程度の難解さがあるからこそ「デキるビジネスマンは~」というようなことも言われるのだろうと思います。ではなぜ絵画は難しいのでしょうか?これは非常に単純で前提となる知識を持っていないからです。

絵画は言語に似ています。全く知らない言語で書かれた文字は理解するどころか読むことすらできません。知らない単語ばかりで、どこで文章が区切られるのかもわかりません。読むためにはその言語の文法や単語を知る必要があります。絵画においても文法や単語のようなものがあります。それが文化や象徴、寓意といったものです。

例えば、男女2人が描かれている絵画があるとします。これだけでは何の絵か分かりませんが、女がリンゴを持っていれば、「ああ、これはアダムとエヴァを表現しているんだな」となります。ここでリンゴというのを特別視することができなければ、リンゴをただの背景のように見てしまえば、絵が示しているものを理解することができなくなってしまいます。

このように、言語に文法や単語といったルールがあるように、絵画にもある程度のルールというものがあります。リンゴを背景と同じように見てしまうというのは、文章をどこで区切るのかが分からず読めないように、絵を見れていないのです。しかし絵を見れてないくても、絵に描かれているものは何らかの形をしているのが大半ですから、「見れている」という錯覚があります。この「見れているのに」というのが絵画を難解にさせている1つの要素ではないか、と私は思います。

絵画を手っ取り早く理解する方法

画家は伝えたいものを表現する手段として絵画という形式を選んでいるのであって、絵画がいきなり出てくるわけではありません(純粋な絵画を追求する考え方もありますが)。また伝えたいものは他人に理解してもらわなければ意味がありませんから、画家が自分で勝手にルールを作るということもありません(理解されない絵画が評価された時代もありましたが)。

というわけで、絵画にはある程度共通するものがあります。その共通するものを知っていれば、作品を個別に理解していく作業をしなくても、大まかには理解できるようになります。また、その共通するものにもいろいろなものがあるのですが、とりあえず代表的なものとして、宗教と歴史を知っておけば便利だろうと思います。

宗教

日本では宗教というと変なイメージが付きまとうことも珍しくないのですが、西洋においては宗教は極めて重要なものです。そして絵画にも宗教の影響が強くあり、17世紀くらいまでの作品の大部分が宗教画です(もちろんそれ以降の時代にも宗教画はたくさんあります)。またその内の8割がキリスト教に関するもので、残りの2割がローマ神話やギリシア神話といった神話になります。

というわけで、キリスト教を知っているだけでも数多くの絵画を理解することができるようになります。また、キリスト教を知るといっても、あの分厚い聖書をすべて理解しなければならないことはありません。聖書の中にも代表的な部分というのがあり、そこだけを知っておけば十分です。

聖書と聞くと嫌悪感を抱く人もいるでしょうが、その代表的な部分は意外と既に知っているものです。例えば、「アダムとエヴァ」「ノアの箱舟」「バベルの塔」「ソロモン王」「最後の晩餐」「十字架」「目から鱗」といったものはすべて聖書に書かれています。物語は知ってるけど聖書に書かれているのは知らなかった、というのは意外と多いのではないでしょうか。こういったものはゲームやドラマ、映画、小説などにはしょっちゅう登場するので、それほど違和感なく勉強できるだろうと思います。ちなみに、宗教を学ぶことと宗教を信仰することは別ものです。分けて考えましょう。

そして、聖書と絵画を合わせて解説してくれている本があります。非常に分かりやすいので勉強したい人にはオススメです。フルカラーなので絵画も楽しめますよ。

歴史

次に歴史です。西洋の歴史を全部理解できればいいのですが、それはさすがに大変です。そこで最低限の知識として美術史の大まかな流れは理解しておきたいところです。西洋美術史も膨大な体系を持っているため、これをすべて理解するというのは学者にでもならないと難しいのですが、しかし大まかな流れというのは一般人でも理解できるはずなので頑張りましょう。

中には美術史は理解する必要はない、という人もいるのですが、やっぱりある程度は必要だろうと思います。というのも、時代背景を知っていなければ作品の意味が理解できないからです。例えば、マネは娼婦を娼婦として描き、大変に注目されましたが、これは当時の美術において裸婦を裸婦として描くことがタブーとされていたからです。何の知識もない現代の人がマネのその作品を見ても「これの何がダメなの?」と作品の意味が理解できないでしょう。時代と共に美術の在り方も変化しているため、美術史を知っておくことは大切だと思います。

ちなみに、以前美術史の流れを大まかにまとめた記事を書きました。今読み返してみたら「よくこんな乱暴な記事書いたな(笑)」と自分でも思ってしまうのですが、でもダーっと読むにはいいかもしれません。良ければ参考に、いや参考にならないかもしれないけど興味を持つきっかけにでもなれば嬉しいです。

1分でわかる西洋美術史の流れ(絵画メイン)

さいごに

絵画を楽しむという意味では別に絵画を理解する必要はないだろうと思います。花の美しさを知るのに植物学の知識は要らない、と誰かが言いましたが、同じように絵画の美しさを知るのに宗教とか歴史とか美術史とかの知識は要らないだろうと思います。

絵を見て「この作品いいなぁ」とか「この絵の女の人、現代風のメイクにしたらどうなるんだろう?」とか「この作品クソでしょ」とか、どう感じるかは人の自由だろうと思います。別に分からなかったら分からないでいいじゃない、それでも感じることはあるんだから、と思います。

しかし理解するという意味ではやっぱり作品に関する知識はどうしても必要になってきますし、ある程度の努力は必要になると思います。「怖い絵展」というのが流行りましたが、あれは「作品の背景を見ろ」とハッキリと言ったのが良かったな、と思います。かなり大衆向けの展示というイメージはありますが、あれで絵画に興味を持った人は多いでしょうし、ああいう展示もいいですね。